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「君の命は百円だよ」 ピエロは笑顔で言った。 「厳密に言うともっと安いけどね。こう言ったほうがわかりやすいだろ」 「そうだな、そっちのほうがイメージしやすい」 「随分冷静だね」 「それが取り柄だ」 手足にかけられた手錠は本物。 いくら力を入れてもびくともしない。 「【マク○ナルドのハンバーガーには人肉が混ざっている】か。随分悪趣味な都市伝説だな」 「挑発はほどほどにしたほうがいいよ。ミンチになる時間が早くなるから」 「別に気にしない。なんなら、今すぐにでも実行すればいい」 「……生意気なガキは好きじゃないよ」 ピエロは肉切り包丁を手にした。 やけに様になっている。 「今まで何人バラした?」 「君は今まで食べたハンバーガーの数を覚えているかい?」 「四個だ」 「随分少ないね」 「ああ、だって俺は」 下半身に慣れた痛み。 「フライドチキンが好きだからな」 「なっ!?」 ピエロが驚愕の表情を浮かべた。 「サイコキラーが何を驚いている」 「……そりゃ驚くよ。いくら僕が手馴れだからって六本足の人間は捌いたことがない」 「足が四本増えただけだ。気にするな」 「いやいや、そこまで図太くないよ。しかも、それが商売敵の都市伝説とあっちゃね」 俺の契約都市伝説は、【ケン○ッキーに使われている鶏は六本足】。 飲食系都市伝説の中ではメジャーな方だ。 「まさか、手錠を外さずに移動を可能にするなんてね」 「といっても、割と不便だぞ。いくら、足が六本あるといっても中心の二本が使えないから歩きにくくてしょうがない」 「いいんだよ、それで。じゃないと、捌くのが余計難しくなる」 いつの間にか、ピエロは空いていた手にも肉切り包丁を握っていた。 「包丁の二刀流ってのはどうなんだ?」 「君の足が六本なんだ。このくらいしないと見劣りする」 「そうかい」 会話はそれっきりだった。 俺とピエロは睨み合う。 一瞬の隙も見逃さないとばかりに。 「ラン」 ピエロが小さく呟いた。 「ラン」 俺も同じ言葉を口にする。 「ルー」 「ルー」 俺と奴はほぼ同時に動き出した。 おまけ(六本足の獣を一通り読んでからどうぞ) 「カーネル君、昨日そんなことしてたの!?」 「ファーストフード界の名誉のためだ」 「その情熱を他のものにも向けようよ! でも、わざと捕まる必要はあったの?」 「工場を特定するためだ。捕まれば、精肉にするため連れて行ってくれる」 「あ、そっか。……あのさ、工場には『人肉ハンバーグなら腐るほどあった』オブラートに包もうよ!!」 「事実だしな」 「だからこそだよ! ちなみに、生存者は?」 「一人いた」 「おお!」 「蹴り飛ばしておいた」 「ファ!?」 「錯乱して襲いかかってきたからな」 「ああ、なるほど。その後は?」 「師匠に任せておいた。人肉バーガーの話を俺にしたのも師匠だ」 「ふーん、本当に血なまぐさい春休みを送っているね。カーネル君は」 「いつものことだ」 「当たり前のように言わないでよ! 私もめちゃくちゃ覚えがあるけど!」 「だったら言うな」 「……来月、高校に入ってもこんな感じなのかな?」 「知らん」 言葉通り、彼は知らなかった。 この春、一人の少女と元巫女と関係を持つことを。
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ロリコンシステム 02 男『俺が直接出向く任務なんて珍しいな、あの組織そんなに人手が足りてないのか?』 黒服『…………。』 男『お前もかッ!!最近誰とも会話してねーぞ!』 黒服『今回の任務は都市伝説及び契約者の監視、可能ならば接触です。それには貴方の能力が適任かと』 男『はいはい、やっぱきこえてんじゃねーか。』 黒服『仕事中ですので…』 男『んで、相手の顔は?これがないと流石に辛いぞ。』 黒服『これです……』 黒服はスーツの胸ポケットから写真を手渡した。 男『お前…こ、これは……』 黒服『知り合い…ですか?』 男『め……』 黒服『め…?なんです?』 男『めぇちゃくちゃかわいいじゃないかぁぁあぁあ~!!!!』 黒服(ビクッ) 男『え?何これめちゃくちゃかわいいんですけど、黒服氏!某はこの娘が欲しいですぞ!!スカウトしようぜッ!スカウト!!!』 写真に移っていたのは10歳やそこらに見える幼い色白の少女であった。例えるなら西洋人形、ヒラヒラの洋服がよく似合う可愛らしい少女だった。 黒服『あ、あの……』 男『ん?なんです?黒服氏』 黒服『(く、黒服氏…?)今回のターゲットについての情報なのですが、年齢は15歳、契約している都市伝説は部屋の中のストーカーです。』 男『部屋の中のストーカー?何それ、都市伝説じゃなくて只の変態じゃん。』 黒服(お前もだぁぁあぁあ!!) 男『俺は変態じゃないぞー』 黒服(ビクッ) 男『で、どんな都市伝説なのよ?』 黒服『は、はい。この都市伝説には明確な呼び名はありません、内容はある女性がストーカーからの電話に悩まされていて逆探知した所、家の中から反応があったというものです。』 男『あぁ~なんとなく聞いたことあるな。で能力は?』 黒服『詳しくは分かりません、その為に今回貴方が召集されたのだと。』 男『ん~まぁそうだろうけど、多少の予想は出来たほうがいいだろ。』 黒服『急に真面目になりましたね。』 男『当然だ、あんな可愛らしい少女がストーカーと契約だなんて、きっと弱みか何かを握られているに違いない!ならば俺は助けるだけさッ!!』 黒服『……………』 男『あわよくばあんな事やこんな(ry 黒服『そろそろ仕事して下さい。』 男『はいはい、わかりましたよっと。』 男は携帯を取出し操作を始めた 男『この娘だぞ~ちゃんと見つけろよ~、………、きたな。』 男は携帯を耳にあて、電話をするようにしている。 男『……、変だな、何も聞こえないな。何も考えてないってことか?』 黒服『無くもないですがこの場合』 男『ストーカーか……』 その時携帯に『ザッ、ザーー』とノイズが入った。 『…ダ……ダレダ……』 男『ッ!?』 『モク……テ…キハナ…ンダ…』 (ばれちまったらしょうがねぇか……) 男『お前たちと直接会って話がしたい。』 ???『何……を…?』 男・黒服『?!』 突然の背後からの声に驚くとそこには写真の少女が立っていた。 少女『何…を話す…の?』 男『い、いつの間に……』 少女『私の…能力……相手が私……を感知するまで私を認識することは…出来ない……』 男『成る程な…』 (コイツは何を考えてるんだ…?) 黒服『私達は貴方の目的を知るために来ました』 少女『目的……?』 そう言うと少女は首をかしげた。 男(かわいい……) 黒服『はい、人類に害をなすのかどうか』 少女『別に……?』 男『じゃあ、君はなんで都市伝説と契約したんだい?』 少女『理由……なんてな……いよ。』 そう言った少女から感情と呼べるものは感じられなかった。 男『都市伝説を使って何かしようとか考えてないの?』 少女『う……ん』 男『おーい、黒服ー。こりゃどうすんだ?』 黒服『保護、若しくは組織の下で監視の継続…ですかね。』 男『君は普段何してるの?』 少女『………………。』 少女の心からも回答が聞こえてくる様子はない。 男は困った様子で黒服に目線を送る。 黒服『情報には住居などそれらしいものはない、というようになってますね。』 男『え?』 こんな少女が家も無しに夜道を歩いてるのだろうか…? 既にストーカーは憑いてるが…… 男『君、お家は?』 少女『ない…。』 男『じゃあ、両親とか…』 少女『いな……い』 この少女はこのままでは組織に飼われるんじゃないのか? こんなかわいいのに…… 男『嗚呼、なんということだろう!!』 黒服(ビクッ) 男『このままじゃ、この子は俺やお前と一緒で組織の言いなり、道具になっちまう。』 黒服『そう、でしょうね。』 男『君、家に来ないか?』 黒服『なッッ!?』 少女『………?』 黒服『何を言ってるんですか?!そもそも貴方の様な人間に預ける事自体問題です!』 黒服は顔を赤くして怒鳴っている、彼なりに少女を心配しているようだ。 男『はは、心配するなよ俺は実家暮らしだぞ?ww』 黒服『そうですが……』 男『それにこの子はこんなだし、心が読める俺の方が何かと便利だろ?だから俺が監視するのに適任だと、そう上には伝えてくれれば良い。』 黒服はなんとも言えない顔をしたが、やがて観念したようだ。 男『あとは本人次第だけどな、どう?家に来ない?』 少女『…………?』 男『そうだ!家、銭湯やってるんだよ、でっけぇ風呂に入り放題だぞ』 何とかその気にしようと必死だった、組織に渡すわけにはいかない、唯一思いついた口説き文句はデカイ風呂に入れるという事だけだった。 少女『銭湯…?何……?』 男『銭湯知らないのか?デカイ風呂の事だよ。』 少女『大き…いお風呂……入りたい…な。』 男『じゃあ、決まりだな!今日から君は家に来る、オッケー?』 少女『う…ん。』 そういって男は少女の頭をクシャっと撫でた、心なしか少女の顔が楽しそうに見える 男『よし!決まったな、じゃあ、黒服、そういう事だから後はよろしくなww』 黒服『ぇ、な、ちょ……』 しかし、男はこの後訪れる衝撃など知る由もなかった。 前ページ連載 - ロリコンシステム
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● ≪杞憂≫が完全に暴走を終息させた。どうやらモニカも正気を取り戻したようだ。 目の前で起きたこれらの事実に、ウィリアムは素直に驚いていた。 ……持ち直したばかりでなく、完全に正気を取り戻させてしまうとはね。 先程、≪杞憂≫の暴走によって体から絞り出すようにして上げていた悲鳴が収まった時から思ってはいたが、 なんとも、人の感情というものは御しがたいものだ……。それを起動キーとする≪杞憂≫を操作しようなど、到底不可能だったのだろうかね……。 それを一応の納得として、ウィリアムは≪杞憂≫の消失で崩れてきた施設の天井の破片によって破壊半ば破壊されたコンソールへともたれかかった。 失った右腕から血液が抜け過ぎたせいで眩暈を起こしたのだ。 血の流出を抑えようと、右腕の付け根をきつく抑えていると、鎧が鳴る音が近づいて来る。 ユーグがその手に剣を執り、ウィリアムへと歩を進めていた。彼はウィリアムへと冷厳な視線を向けて問いかける。 「満足か? ウィリアム」 「そうだね、当初は≪杞憂≫の発現とともに暴走に巻き込まれて身を滅ぼす事になるだろうと思っていたのだけど、この結果は思ったよりも面白い物になったね」 地鳴りが聞こえる。この地下施設は先の≪杞憂≫発現に伴う柱の出現でいくつもの穴を穿たれている状態だ。支えとなっていた≪杞憂≫の柱も先程消失した。支えを失った地下施設全体が崩壊しようとしているのだろう。 「そろそろこの施設も崩れてしまうね……」 そう言ってウィリアムは残った片腕でコンソールを操作する。辛うじて生き残っていたモニターがひどいノイズを交えつつも映像を繋いだ。映像の向こうにいる人物は、 「――やあ、オルコット。結局重要な所は邪魔されてしまったけど、それでもワタシのやりたいようにさせてもらった礼に、最期に研究成果を報告してあげようか」 ≪神智学協会≫の長、オルコットだった。 ● オルコットは画面の中で一つ頷きを作ると、ウィリアムに話を促した。 『聞こう、ウィリアム。お前の最後の報告を』 「そちらに直通の回線を設けてある事に驚きもしないのか。君の掌の上だったということかね?」 喉を震わせる笑いを浮かべたウィリアムに、オルコットからの返答は無い。 ユーグがいつでも斬りかかれる体勢になっているのを背中越しに確認し、ウィリアムは肩を竦めて伝えるべき事項を告げ始めた。 「まず、レニーとトリシアが≪悪魔の密輸≫を用いて封印していた≪杞憂≫の件だけど、封印解除及び≪杞憂≫の発現に成功。その過程で憂いの感情を暴走させての≪杞憂≫の暴発を試みたけど、これはこの通り見事に収められてしまった。モニカ嬢は無事。健康状態はまあ、封印の解除直後までのデータでなら健康そのもの。今でも疲労がたたっているだけで一応健康体ではあるだろうね。そして――」 ウィリアムはうん、と前置きし、 「≪杞憂≫を宿し、発現させ、あまつさえその力を暴走させてなお、何の影響も見られない。この分ならば≪聖槍≫との契約も問題無く成功するのではないかな?」 ● 「≪聖槍≫……だと?」 由実へと施している治療の手は止めずに、Tさんはモニターへと話し続けるウィリアムに言葉を投げた。 ウィリアムの出した都市伝説の名は、あまりにも有名で、そして危険を孕んだ代物だった。 「ああそうか……君達はそこまでは知らないのか」 ウィリアムはTさんへと振り返ってそう呟くと、円弧の笑みを血の気の薄くなった表情に浮かべた。 「そう、≪聖槍≫。オルコットの目的は知っているね? それを成す為には先も言ったけど、モニカ嬢に二つの都市伝説を契約させなければならないんだ。一つは≪杞憂≫、そしてもう一つが」 「≪聖槍≫ってやつなのか?」 「その通り」 舞の言に答え、ウィリアムは続ける。 「≪杞憂≫が今の世界を一度掃除し、しかる後に≪聖槍≫の能力が世界を制圧、後々まで世界は≪聖槍≫の制圧が統制し、乱れが生じた場合は≪杞憂≫が再び文明をリセットする。 これを為すには二つの都市伝説が別々に存在するのではだめだ。大きな力を方向付けて制御するためのモニカ嬢という器、そして二つの力を複合して、矛盾させる事無く扱う事のできる契約者という立場、それによって操作される≪聖槍≫の世界制圧と≪杞憂≫の世界の崩壊。その二つを複合した結果としての世界の再構成。それらをもってオルコットは世界に対して新たなルールを刻みつけようとしているのだね」 「≪聖槍≫……所有するものに世界を制する力を与える、か」 千勢が呟いたのは≪聖槍≫が持つ様々な逸話の一つだ。モニカに契約させられる≪聖槍≫の力はそれなのだろう。 「しかし、そのような強大な都市伝説との契約を、しかも二つもさせては普通、契約者の身が保ちはしない筈だ……」 「モニカ嬢には都市伝説に対する特殊な許容能力があるのだよ」 「なに?」 「その辺のカラクリはモニカ嬢本人を無事に連れ帰れたら聞くといい。あまり時間は残されてはいないのでね」 天井の瓦礫が降って来る。地下の本格的な崩壊が始まったのだ。 ……このままここに居るのは危険か。 由実の傷はとりあえず塞がっている。危機は脱した状態だろう。 ……ならば、 「リカちゃん、藤宮由実を頼む」 「わかったの」 立って、いつでも動ける状態に自分をしておきながら、Tさんは三つ巴となっている現場に張り詰めた緊張の糸を観察し始めた。 ウィリアムはモニターの中のオルコットへと振り返って報告を継ぐ。 「――さてオルコット。そのような感じで実験は万事成功だ。残念ながらワタシがみたかった崩壊は見られなかったけどね。そのせいでつい口が滑ってしまった。まあ成果物の自慢は制作者の特権と言う事にしておいてくれ」 『そうしておこう。そしてやはり腕は確かだったようだな、ウィリアム』 「お褒めに預かり光栄だよオルコット。君が世界に何を穿つ事が出来るのか、あの世で観覧させてもらうとでもするよ」 『好きにするといい』 その言葉を最後に、モニターに映っていたオルコットの姿が消失、画面がブラックアウトする。更に瓦礫が落ちてきて、モニターが完全に破壊された。 対話が終わったウィリアムへと舞が言葉をぶつける。 「おい、待てよ」 「なんだね? 君は……そう、マイだったね。何か質問かな?」 そう続きを緩やかに促すウィリアムに舞は訊ねる。 「モニカになんかわけの分かんねえもんを契約させてよ、それで都市伝説が無事に使えるようになったとしてさ、それでモニカの方はどうなるんだよ?」 「ああ、そんな事かい?」 ウィリアムはそうだね、と少し考える間を置いて舞の質問に返答する。 「モニカ嬢は死にはしないよ。ただ、精神の方は深い深い眠りにつくことになる」 「眠り?」 「何者にも侵されることのない、安楽の眠りだ」 ユーグがウィリアムの言葉を奪うように割り込んだ。彼が喚び出した騎兵達が、その手に携える槍をTさん、ウィリアム双方に向けた。 「騎士のおっちゃん……?」 先程は彼等によって守られていた舞が、戸惑いと、やはり、というニュアンスを同時に含んだ声でユーグに呼びかける。 「モニカ嬢を渡してもらおう」 率直にそう言って詰め寄るユーグ。そんな彼に千勢が宝剣と視線の切っ先を向け、同じように大太刀を構えて臨戦態勢に入った弘蔵を牽制するようにTさんが掌を向ける。 そして、 「そう、やっぱりウィリアム、あなたでもモニカ嬢の精神を取り出して、別の器に移しかえる事は不可能だったのね?」 新たな声、襤褸同然になった衣服を引っ掛けただけの、ひどく疲弊しているエレナがこの部屋へと現れた。 「……やはり、生きていたか」 千勢が呟き、ウィリアムが口端を吊り上げる。 「ああ、その通りだよエレナ。それにしてもひどいありさまだ。――まあワタシもあまり人の事は言えないがね」 ウィリアムはうん、と短く前置きし、片腕の付け根を抑えたまま、白衣の、失くした片方の腕の部分を揺らして大仰に語る。 「精神という要素はどうも都市伝説に対して重要らしい。アキヅキ達を用いた実験の結果、精神を抜かれた身体に宿った都市伝説は制御が利かない、あるいは暴走状態になりやすい事が判明してね。普通の都市伝説でそれなのだから、≪杞憂≫や≪聖槍≫クラスの都市伝説で制御が利く道理も無い。そしてこれらの都市伝説の暴走が起ころうものならオルコットの目的は果たせない事になるね。――でも」 そう言ってウィリアムは無くなった右腕の肘を抑えていた手を離した。抑えの無くなった右腕から流れる血が地面を染めていく速度が加速する。 己の生命を危険に晒す行為に、しかしウィリアムは笑みを浮かべて血に濡れた左手を翳した。 「最期にそれを見てみるのもいいかもしれない。精神の均衡を崩して意図的に暴発させた≪杞憂≫は発現の仕方が歪んで効果範囲が狭まっていたけど、精神を破壊した時にはどのような結果が現れるんだろうね?」 「お前も死ぬ事になるぞ?」 「構わないさチトセ。ワタシはね、自ら完成させた最高の器を自分で壊してみたい欲求にかられているんだよ! オルコットの目的は果たせなくなるけど、それはワタシにとってはどうでもいい事。研究の成果、それを体験して死ねるのならそれもまた、本望だ……!」 そう言ってウィリアムはコンソールの傍に設置されている、複数のガラスを連ねたような装置に血に濡れた左手を置いた。 「≪グラス・ハーモニカ≫――、いくよ?」 「≪グラス・ハーモニカ≫だと……!?」 「え? なに? ハーモニカ?」 舞が周囲の人々が一様に厳しい表情になったのに戸惑いを表す。Tさんが頷き、 「演奏するだけで人を発狂させたり霊を招くという逸話を持つ楽器だ。舞、リカちゃん、耳を塞げ」 「お、おう」 「わかったの」 「ああ、大丈夫だよ。いまのこの≪グラス・ハーモニカ≫はしっかりモニカ嬢用に調律してあるからね。他の者には効かないよ」 ウィリアムが≪グラス・ハーモニカ≫へと手を置く。その血濡れの左手がガラスの上を滑りだすと、不思議な音色が流れだした。 妙に不安定になるような、妖しい音だ。 「――ッ」 Tさんが光弾を現し、千勢が剣を振りかぶる。しかし彼等の攻撃が届くより先に、 「――――、アキヅキ、か……」 「研究成果の手にかかって死ぬのは本望なのだろう? 儂あたりで妥協しておくといい」 「まったく、執着なんて、するもの、では……ない、ね…………」 弘蔵の大太刀が、ウィリアムを左肩から袈裟斬りに切り裂いていた。 前ページ次ページ連載 - Tさん、エピローグに至るまで
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西区にほど近い、廃棄された製薬会社。 黒服に指定されたその場所に着いた。 錆びついた看板や窓枠の外された外観が不気味な印象を与えてくる。 「なんだか、嫌な雰囲気の場所だね…」 「そう、だね… でも、紗江ちゃんは私が護るから!」 『都市伝説の気配が致すな…お二人共、用心下され』 アンサーが呟いた。 「お待ちしていましたよ」 建物の入り口から、担当の黒服が姿を現した。 「「…黒服さん?」」 「おや、私が現場にいる事がそんなに不思議ですか…?契約者を担当している黒服も、現場に出る事はありますよ…こちらです」 黒服について、建物内部に入る。 階段を下りて、地下室の、同じような作りの部屋がいくつも並ぶ長い廊下を歩きながら黒服が話す。 「今回の任務ですが…とある都市伝説を救って頂きたいのです」 「都市伝説を…救う?」 「ええ。都市伝説は、忘れられると消滅します。存在を保つには、一人でも多くの人間に存在を知ってもらわなければなりません…貴女方には、この場所にいる都市伝説の存在を保つための手伝いをしていただきたいのです」 どうやら今回の任務はとある都市伝説を救う事らしいが…担当の黒服の不穏な情報の事もあり、その言葉を信じきる事が出来ないでいた。 「……あの、黒服さん…以前お伺いした件なんですが…」 ここで聴き逃したらチャンスが無いような気がして、意を決して、紗江が尋ねる。 廊下の突き当たりの扉を開けながら黒服が呟いた。 「ああ…担当の黒服を変えられるか、という話ですね。その件でしたら、特殊な事情があれば変えられますよ」 あっさりと返ってきた肯定を、喜ぶべきか迷った。 促されて、部屋に入った姉妹。黒服は自分も部屋に入った後、扉を閉めた。 広めの部屋には、二人の黒服がいた。一人は、部屋の中心にビデオカメラを設置している。 もう一人はビデオカメラの近くの床の上に、鉈、鋸、鋏、金属バット等を置いている。 「ぅ…………!」 明らかに異様な光景。そして、部屋の中には猛烈な血の匂いが充満していた。思わず、口元を押さえる。 ふと、部屋の隅に無造作に転がっているものが目に入った。 ―家を出るまで生きて話をしていた、姉妹の、両親の死体だった。 「――――――!!」 「ぁ……うあ……!」 悲鳴を上げたはずだったのに、口からは途切れ途切れの言葉しか出てこなかった。 紗江が、紗奈に死体を見せないように、庇うように前に出た。 両親の死体は、巨大な獣にでも食われたかのように所々食い荒らされていて、腹部に至ってはその中身がこぼれ出ていた。本来は射殺されているのだが、その傷口のあった周辺も食われていた。 「ああ…救って頂きたい都市伝説は『スナッフフィルム』といいます。娯楽用に流通させる目的で行われた、実際には存在しないといわれている殺人ビデオの事です。 なにしろ、存在しないといわれているだけあって、個体数がなかなか確認できていないので… 『スナッフフィルム』が学校町中に広まれば、面白い事になるでしょうからねぇ… ご両親ですが…娘が死ぬのに、親だけ残しては可哀そうですからねぇ…先にあちらに送って差し上げました」 姉妹の前に立って、笑みを浮かべながら話す、A-No.666。 …それは、ある意味で実験材料と呼べるものだったのかもしれない。 ―そんなことの為に、両親を殺したのか 「――貴方っ…!」 言葉が途切れた。いつのまにか傍に来ていた、凶器を並べていた黒服に髪を掴まれて横倒しにされ、仰向けに転がされた。紗江ちゃん!と自分の名を呼ぶ紗奈の声と、床と擦れる背に感じる痛みにも似た摩擦熱と、髪を引っ張られる痛みを感じながら、そのまま部屋の奥までずるずると引きずられていく。 紗江が引きずられていくのを見て、助けようと反射的に上着のポケットから携帯を取り出した。 直後、担当の黒服に携帯を奪い取られた。 「全く…助けを求めるにしろ、都市伝説の能力を使うにしろ、私を忘れてもらっては困りますねぇ…」 そういいながら、無造作に携帯を開くと、ばきり、と真ん中から二つにへし折った。 携帯の残骸を床に落とし、紗奈の腕を掴むと、部屋の真ん中―ビデオカメラの前に引きずって行き、勢いよく突き飛ばした。 ビデオカメラを設置していた黒服が、カメラを回し始める。 ―― 部屋の奥まで引きずられ、ようやく黒服が止まった。 起き上がろうとしたら、三、四回ほど顔を殴られた。 黒服が、懐から何かを取り出した。カチャリ、という金属音。パン、という乾いた音と、脚に激痛を感じた。 思わず目を向けると、脚が赤く染まっていた。 黒服が手にしている拳銃から、硝煙が上がっていた。 黒服は拳銃をしまうと傍にあった金属バットを、紗江の左腕に叩きつけた。 二の腕が赤黒く変色し、曲がるべきではない方向に曲がった。 「……………!!」 声も出ないほどの激痛とおぞましい感覚に、額に嫌な汗が浮かんだ。 そうして、首を絞められた。 ぎりぎりと爪が食い込んで、痛い。息が出来ない。苦しい。 少しずつ周囲の音が遠くなっていく中、紗奈の悲鳴が聞こえた。 (紗奈ちゃん……!?) もがいた右手に、何かが触れた。 それ――小振りの斧を掴んで、黒服の頭に思い切り叩きつけた。生暖かい返り血を浴びた。 首を絞めていた手が外れ、血をまき散らし、斧を頭から生やしたまま、黒服が真横に倒れこんで、動かなくなった。 げほげほと咳き込み、激痛に堪えながら壁を支えにして上体を起こす。 (紗奈ちゃんは―――!?) 視界に、血塗れの紗奈にのしかかった担当の黒服の姿と、三つ首の大きな獣の首の一つが紗奈の脇腹に食らいついているのが見えた。 あの獣が、どこから出てきたかなんてどうでもいい。両親と最愛の妹を害した。それだけ分かれば十分だ。早く殺して、紗奈が手遅れになる前に救急車を呼ばないと。 一人になりたくない、紗奈を失いたくない。 紗江の憎悪に引きずられて犬神が徐々に数を増していくが、その姿は蜃気楼のように揺らいでいて、酷く不安定だった。 紗江は、犬神の数が増える度に、自分が自分で無くなっていくのを感じていた。 (………私はどうなってもいい。紗奈ちゃんだけは、絶対に助ける) 担当の黒服を睨みながら、行って、と犬神達に指示を出す。どうにか形を保っている二十から三十匹ほどの犬神の群れが担当の黒服と、その後ろでビデオを回している黒服に向かっていく。 ――― 両親が無残な姿になっていた。巻き込まれて、死んでしまった。 携帯電話を壊された。 一応、アンサーとの繋がりは感じ取れるものの、都市伝説の能力も使えないし、天地達に助けを求める事も出来ない。 (――どうしよう…どうしよう…!) 腕を掴まれてビデオカメラの前まで連れて行かれ、突き飛ばされた。焦りと恐怖と混乱で半ばパニックになっていた紗奈の視界に、担当の黒服の姿が映った。 ――担当の黒服がサバイバルナイフを振り上げていて、がつっ、と左の掌を貫通して床に突き刺さった。 「――うぁ……!?」 黒服は、床に置いてある凶器の中から小刀を選ぶと、紗奈にのしかかり、右目に小刀を近付けて――ぶつ、と上瞼に突き刺した。 「――あああああああああああああああああああああああああああ!」 ――痛い!痛い! 絶叫を上げた。視界が真っ赤に染まった。 刃ががりがりと瞼の肉を削ぎ、眼窩の骨を削り、神経を寸断しながら何度も何度も抜き差しを繰り返して右目を蹂躙して行く。 自由になっている右手で必死になって小刀を持った腕を引き剥がそうとするも、少女の力では引き剥がせず、ただ縫いとめられた左手の傷を広げていくだけだった。 右目が痛みの坩堝と化していた。涙なのか血液なのかも分からない、熱い液体が頬を濡らしていく。 永遠のようにも、一瞬にも感じた蹂躙が終わりを告げた。 やがて、ごぼ、と濡れた音をさせて、眼球が掘り出された。瞼の裏に、空気が入り込んだ。頬を伝い、眼球は、血の跡を引きながら床に転がり落ちて行った。 朦朧とする意識のなか、涙でぼやけた左目の視界に大きな獣の姿が映った。 直後、脇腹に熱さと苦痛を感じて、一瞬、息が止まった。 呼吸をする度に、脇腹の傷が、絞られる様に痛む。 (…紗江ちゃん、ごめんね…護るっていったのに……) 溢れ出る血液が、体温を奪っていく。 (私…紗江ちゃんに…何にも言えてない……ちゃんと…伝えておけば、良かった…) 紗江への想いを自覚したものの、嫌われたくなくて伝えられなかった事を後悔しながら意識を失った。 閉じられた左目から、一条の涙が零れ落ちた。 「おや…この程度で気を失うとは情けない。もっと楽しませて貰いたかったのですが… ケルベロス、出てきてしまったんですか。仕方ありませんねぇ…」 A-No.666は、血の匂いに反応して出てきたケルベロスに、やれやれ、と肩をすくめた。 首の一つは、紗奈の脇腹に食らいついている。 (都市伝説の存在を一般人に知らせる訳にも行きませんし……このテープは、過激派への土産にでもしましょうか) 「次は……ハラワタでも、引きずり出してみましょうかねぇ」 『グルァァ!』 犬の咆哮が聞こえ、目を向けると二十から三十匹ほどの犬神が、群れとなってこちらに向かってきていた。 「ひっ………!」 後ろでビデオを回している黒服が、引き攣った声を上げた。 だが、A-No.666に焦りは無い。 直後、ケルベロスの二つの頭が、ごう、と口から炎を吐いて、こちらに向かってきていた犬神の群れを一掃した。 『ギャッ!』と、犬神の断末魔が上がり、灰も残さず消滅した。 炎が消えた後、残ったのは床の焦げ跡と、血に染まり、荒い息を吐きながらこちらを睨み据えている紗江の姿だった。彼女の周囲に何十匹もの犬神がいたが、それらは蜃気楼のように揺らいでいて、酷く不安定だった。 能力に、器の方が追い付いていないだろうことは一目で分かった。 都市伝説に、飲まれかけている状態。放っておいても勝手に自滅する。 何より、ケルベロスの炎に耐えられるものなどいない。 己の絶対な優位を疑わず、A-No.666は笑みを浮かべた。 続く…?
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体が痛い。背筋がぞくぞくして、なんだか頭がぼうっとする。 「風邪だね」 ここ学校町は新田家。ノイと柳を除く全員が風邪にやられていた。 いや、新田家だけではなく、学校町全体で風邪がパンデミックしていたのだ。 「ムーンストラック、しっかりして」 「む・・・ノイ・リリス。感染るといかん・・・部屋から出なさい」 「極くん、大丈夫?ああ、飛縁魔は殺しても死なないから平気だね」 「ぼ・・・僕は平気です、うっ、げほげほげほ」 「・・・治ったら、ごほっ、張っ倒す」 「みんな、どうしちゃったのかなー?」 部屋でひとり首をかしげるノイの耳に、小さな声が聞こえる。 「おい!」 「ふぇ?」 見回しても、誰もいない。みんな風邪で寝込んでいるし、柳は病人の世話に忙殺されている。 つまらないから幻と遊ぼうかと思ったけど、貴也がひどい風邪で、これまた看病に忙しいのだという。 空耳かなぁと窓の外に目をやると、 「ここだ!ここ!」 見下ろしてみると、毒々しい色の小さな金平糖のようなものがそこで声を張り上げて―なにぶん体が小さいので、その分声も小さい―いた。 どっかで見たことがあるなぁとしばし首を傾げ― 「あ!エヘン虫だ!」 テレビで見たー!ホントにいるんだー!と好奇心旺盛に突っつき回し出したので“エヘン虫”は大慌て。 「ば!バカかお前!オレ様はな、都市伝説なんだ!」 その“エヘン虫”いわく、彼は「馬鹿は風邪を引かない」という都市伝説で、普段はひっそり温和しく、冬だけ活動して平和に暮らしていたものの、ここ学校町に来た途端急に能力が拡大して、町中にその力を振りまいてしまったのだという。 「みんな困ってるよー、早くカゼをなおしてよ」 「オレ様は風邪を引かせることは出来ても、風邪を治すことは出来ないんだ!」 みんな困れ困れー!と高笑いを上げる「馬鹿は風邪を引かない」に向かって、全員の熱冷ましシートとアイスノンを代えた柳が一言。 「このまま風邪が収まらなかったら、『組織』が調査に乗り出して、君なんかあっけなく討伐されちゃうね」 にこにこの笑顔のままこれを言うものだから、かえって怖くなったらしい。 「うっ!それは困るのだ!オレ様契約者を探さなきゃ」 彼曰く、契約者を作って契約すれば、力が安定してこんなに無駄に振りまかずに済む、よって風邪のパンデミックも収まる。との事で。 「柳、あたし、行ってきていい?」 襟元にリボンを結んだ紺色のワンピースに、しっかりベレーを被って。 「じゃ、行ってらっしゃい。みんなの面倒は任せてね」 元気よく家を出たノイはぱたぱたと駆け出した。 街にも風邪はあふれていた。 「けほん、けほん」 「げほっ・・・こんな時にも呼び出しなんて、蓮華ちゃんも冗談キツいぜ」 「ご主人様・・・しっかり、こほっ」 「はっくしょん!」 「ごほっごほっ・・・ああ、あそこに健康な人間が、ああ妬ましい、健康が妬ましい・・・!」 「ホントにみんなカゼだぁ・・・エヘン虫、なんとかできないの?」 「だーかーら!オレ様はエヘン虫じゃなくて!ああもういい!」 「ねーねーっ」 ふたり(?)に声を掛けてきたのは、水色の髪と目の、ノイよりちょっと年上の、可愛い女の子。 その子はエヘン虫を指さして一言。 「それ、食べてもいーかな?」 「ふぇ?」 エヘン虫を?食べる? 「このコは都市伝説だから、食べられないよ?」 あまりにも唐突な申し出に、ふたりとも頭がついて行かない。 そうこうするうちに― 「えいっ」 その水色の髪の少女が、エヘン虫をつまみ上げてぽいっと口に運ぼうとした。 「わー!!??」 「やめてー!?」 ノイが少女に飛びついた拍子に少女の手がエヘン虫から離れ、あわててエヘン虫はノイの後に隠れる。 「私ね、つーちゃん」 「『感染系都市伝説担当部署』ο(オミクロン)-No.2」 「ゼロりんの命令で、その都市伝説を“食べに”来たんだ」 「えっ・・・エヘン虫を、食べるの?」 ダメだよ!とノイが悲鳴を上げる。 「だって、命令なんだもーん」 “つーちゃん”と名乗った少女はじりじりとノイに近寄る。 「邪魔すると、あなたも食べちゃうよ?」 (このコ・・・本気だ) どうしよう、エヘン虫が食べられちゃう。 少女の動きに合わせてじりじりとノイも後ずさりする・・・が。 (どうしよう、壁だ) 「じゃあ、いっただきまー・・・」 「あーっ!!!!」 時ならぬ大声に、思わず“つーちゃん”の動きが止まる。 大声の主は、長い茶髪のサイドだけを高い位置で束ね、水色に白いメリーゴーランドの柄がプリントされたワンピースを着た、 ふたりよりも更に年上と思しき、辛うじて少女と言えるくらいの女の子。 「それ、可愛いー!貰っていい?ううん、ちょーだい?」 「え、でもこのコ」 茶髪の少女はしばしじーっ、とノイを見つめる。 この少女は「ダンタリアン」の契約者、水上怜奈。 契約都市伝説である「ダンタリアン」の力を最大限に使い、あらゆるモノに「変身」し、 さらに「ダンタリアンの書物」であらゆる生き物の思考を“読む”事が出来る。 「あ、うん。いーよ、よくわかったから」 ひとり勝手に頷くと、ひょいとエヘン虫をつまみ上げる。 「それ、私が食べるんだけどー!」 さっと延びてくる“つーちゃん”の手をかわすと 「へーんっ、しんっ!」 茶髪の少女は見る見るうちに、小柄な黒髪に、ベレー帽姿の少女となっていた。 「う、うっそー!?」 「な、な、なんだぁ?」 ノイが、ふたり。 これには当のノイも、エヘン虫もびっくり。 未だに呆然としているノイの手を、ノイに“変身”した怜奈が持ち上げ 「どっちだっ?」 「え?え?こっち?」 あまりの急展開に彼女も着いていけなくなったのか、ノイの方を指し示す。 「あっそ、じゃ、コレあげる」 自らの盾にするようにひょいっとノイを差し出した怜奈。 「へーんっ、しんっ!」 お次は一羽の鳩になり、羽音もばたばたと喧しく飛び去っていった。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 あとに残されたのは、黒髪と水色の髪の、ふたりの少女。 先に我に返ったのは、水色の髪の少女で。 「ねっ!都市伝説は!?」 揺さぶられたノイは、未だに夢でも見ているかのような表情。 「あ、あの子が、持ってっちゃった・・・」 “つーちゃん”はしばらくその場でわなわな震えて立ち尽くしていたが、やがて。 「わーん!ゼロりんにいいつけてやるー!!」 盛大に泣きながら、去っていった。 それから程なく。 学校町で大流行した風邪は程なく終息に向かい、街はいつもの平穏を取り戻した。 「エヘン虫、元気でやってるかな・・・」 いつもの家のいつもの部屋でひとりごちるノイ。 「待って・・・『バカは風邪を引かない』?ってことは・・・あたし、バカってこと!?」 その疑問に今更気づいたことが、何よりの答えだろう。 END
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目が覚めた、その瞬間 恐怖が彼女を支配した 「-------ぁ」 自分は 何をしていた? 何をしてしまった? ただ、彼に振り向いて欲しかった ほんのちょっとでも、彼に想いを伝えたかった ただ、それだけだった、はずなのに 「ぁ、あ…………あぁあああああ………」 自分は 何をしてしまった そして 自分は、何の力を借りてしまった にょろり たこが蠢く 自分が生み出した、タコが 「っいやぁあああああああああああああああああああああああああ!!??」 彼女は悲鳴をあげた 恐怖に、絶望に 自分が、このタコを生み出した? こんな、あまりにも大きな……化け物じみた、タコを いや、それよりも、人間がタコを生み出すなんて、ありえない 一体、自分の体はどうなってしまっているのだ? そして、ここはどこだ? 自分と、よくわからない筋肉質の男二人以外には、誰もいない空間 どんなに助けを求めても、誰もない 誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰もだれもだれもだれもだれもだれもだれもだれもだれもだれもだれもだれもだれもだれもだれも…… 恐怖と絶望が、彼女の精神を支配する それは、彼女の精神の限界を、超えようとしていて その精神を、完膚なきまでに、壊してしまいそうで……………--------- ずる、と その体が、どこかに引きずり込まれる それは、彼女の心に新たな恐怖を生み出した 引きずり出された場所が、どこなのかもわからず、彼女は悲鳴を上げ、暴れ続ける 「嫌、嫌、嫌ぁああああああああああっ!!??」 「っちょ、せっかく出してやったんだから、暴れるなっ!?」 小さな女の子の声が聞えてきた気がした でも、きっと違う これは、女の子なんかじゃ、ない ----化け物だ 彼女の本能が、そう告げてくる 嫌だ 怖い どうして、自分がこんな目に 「嫌だ、怖いよ……助けて、日景、く…………」 彼女の言葉は、最後まで続かなかった 暴れ、泣き喚く彼女の顎を、何かが強引に掴む 無理矢理顔をあげられ…そこには、ツギハギの傷をもった顔の男が、いて それが、サングラスを外したのを見たのを、最後に 彼女の意識は、闇へと消えた 「…記憶の消去が完了した。この女性に、都市伝説と関わった記憶は一切、残っていない」 「そう………手間をかけさせたわね」 G-No.1の無感情な言葉に、そう答える望 G-No.1の代わりに、ヘンリエッタが望に告げる 「構わんよ。アフターケアも、「組織」の仕事のうちじゃからの」 「本当なら、永遠に鏡の中に閉じ込めておいても良かったんだけどね」 「私が鏡の前通るたんびに、発狂寸前の悲鳴が聞えまくりだよ?こっちが気が狂いそうになるってば」 ため息をつく望の言葉に、そう訴える詩織 そう、藤崎 沙織から、悪魔の囁きが消滅して以降……元々、都市伝説と言う存在を受け入れてなかった彼女は、己の現状に発狂しかけていたのだ そして、彼女のその悲鳴は、鏡と言うツールを通して詩織に伝わり続ける訳で …いくら彼女が都市伝説とは言え、発狂寸前と言うか、ほぼ発狂した人間の悲鳴を聞き続けるのは、少々精神衛生面によくない そこで、大樹に頼むのは、少々気が引けたのだ ヘンリエッタを通して、G-No.1に、藤崎の、都市伝説に関する記憶の消去を頼む事にしたのだ ついでに、藤崎が「タコ妊娠」と契約してしまっている状態も、どうにかしてもらうつもりだ 「…まったく、私も甘くなったわね」 こっそりと、望は苦笑する 翼が、なるべく殺すなと言ったから、藤崎を殺さなかった …藤崎を、詩織の能力から解放したのも 鏡から綺麗な藤崎を出せばどうにかなるかとも想ったが、冷静に考えると、大樹にはその真実がバレるから、と言うのもあったのだ 大樹の胃痛の種は、増やしたくない こうして 望の寛大な処置やらなにやらで、藤崎 沙織は現実の世界に戻ってきた 彼女から都市伝説が剥がされ、彼女が日常に戻った時 彼女は、今回の騒動に関わった、その全てを忘れ去っていた ただ 残った恋心は、永遠に叶う事はないのだと言う ほろ苦い想いだけを、残して fin 前ページ次ページ連載 - 悪意が嘲う
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マッドガッサーと愉快な仲間たち 07 (死人部隊より) 「………ん?」 「どうした?」 「あ、いや、なんでねぇ」 …さっき、視界の隅に入った血色の悪い連中は…確か、「首塚」の仲間の中年が契約している「死人部隊」 誰かを追いかけていたようだったが… ……まぁ、そんな問題行動起こす奴じゃなかったはずだし、大丈夫だろう それに (…こいつは、都市伝説に絡ませたくないしなぁ…) 久々に再会した、小学校の頃からの友人 大学の関係で隣町に引っ越したはずだったが、学校町が懐かしくなって、戻ってきていたらしかった こちらから大学に通うのは大変だろうに …小学校の頃は、友人などほとんどいなかった そんな自分に声をかけてくれた、一緒に遊んでくれていた友人 ……だからこそ、都市伝説絡みの事には巻き込みたくない 昔から、こいつが巻き込まれそうになったら、自分が何とかしてきたのだ また、学校町に戻ってきたのなら…こいつが都市伝説に襲われそうになったら、自分が助けよう 自分は、都市伝説と契約しているから…都市伝説と、戦えるから それが、あの頃、周りの同級生たちの話題に入る事すらできないでいた自分の友人でいてくれたこいつへの恩返しだ 「何だよ、面白いもんでも見たんじゃないのか?」 「いや、気のせいだったから」 …どう考えても、「死人部隊」の連中が三人くらい走っていたのは…何かを追いかけていたのは見間違いではなかったのだが こいつが興味を持たないよう、そう言っておく そうか?と友人は首を傾げたが…とりあえず、興味を失ってくれたようだ 「んじゃあ、俺はこれで」 「何だよ?もう帰るのか?」 「あぁ、夕飯作らないと」 「あー…同居人がいるんだったか。大変だな」 「いや、別に大変でもないさ」 一人分作るも、三人分作るも、自分としては大して変わらないと思う それに、三人分の方が作りやすい物もあるし…鍋物とか 今夜辺りも寒くなってきたから、白菜鍋でも作ろうか 「それじゃあな」 「あぁ、またな」 ひらひらと手を振って、友人と別れる …黒服と、一緒に生活できるようになったし 友人と、また会えるようになったし 最近、いい事が続いているな、と よく日焼けした金髪のその青年は、どこか幸福な気持ちを抱えて、家路につくのだった * 「…………」 彼は、その金髪の、日焼けした青年の後ろ姿を見送った ……あぁ、幸せそうだな 妬ましいな 昔は、あんなに幸薄そうだった癖に 自分が声をかけなければ、人の輪に入る事もできなかった癖に……! いつからだったろうか、あいつが変わったのは 気づけば、あいつは少しずつ明るくなっていっていた 少なくとも、自分がそれに気づいたのは、確か授業参観の日 いつも通り、あいつの親は来ないんだろうな、と思って あいつが落ち込むだろうから、後で慰めてやろうと思って… ……だが、あの日、誰の親かもわからない、黒尽くめのスーツの男が顔を出して その男を見て、あいつはどこか幸せそうに笑って …あの男が、あいつが変わった原因なのだと、俺は知った 変わったあいつは、どんどん変わり続けていった 体を鍛え、高校に入ってからは親元から離れたせいか、色々と吹っ切れてあぁいう外見になって 昔は、何もかも、俺が勝っていたはずだったのに 何時の間にか、何もかもで負けるようになった あぁ、妬ましい、妬ましい あの頃に戻りたい 何もかも、全てあいつに勝っていた、あの頃に 「…マッドガッサーとマリが追いかけられてたな……まぁ、俺がいなくてもどうにかなるだろうが、助太刀しに行くか」 魔女の一撃はいないが…まぁ、俺だってある程度の戦闘力は持っているつもりだ ちょっとくらいなら、力になれるだろう …もしかしたら、とっくに戦闘が終わっているかもしれないが そう考え、「魔女の一撃」の契約者は、マッドガッサーとマリ・ヴェリテが、死人部隊に追いかけられて逃げていった方向へと向かう ………さぁ、あの友人を、いつ裏切ってやろう? いつ、絶望のどん底へ落として……支配してやろうか? そんな歪んだ願いを、こっそりと抱えながら… to be … ? 前ページ次ページ連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち
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占い師と少女 日常編 04 南区にある商店街の一角。 私は占い師さんを連れて、買い物に来ていた。 「早く行きますよ、占い師さん」 「…………すっげぇ、重いんだけどよ」 そういう占い師さんの両手には、計4つのレジ袋がぶら下げられていた。 生鮮食品もこうして持てるのは、秋の冬日+曇り空の特権だと思う。 「つーか、こんなに買う必要あるのか?」 「安売りをしてる時にまとめ買いをした方が安上がりなんですよ」 「しかしだな――」 「大体、占い師さんが値段も見ないでスーパーで買ってくるのがいけないんですよ! チラシだって見ないですぐに捨てちゃうし……」 私が外出禁止を命じられていた数日間の食費は……正直あんまり考えたくない。 「塵も積もれば山となるんですよ。無駄遣いも続ければ莫大な金額になりますし、逆にそれを貯めればいざって時の貯金にもなりますから」 「へいへい…………」 「ほら、次の八百屋さんは占い師さんしか知らないんですから、ちゃんと先導お願いします」 「……そういや、まだ増えるんだな、この荷物……」 ―――――――――― 「おう、兄ちゃん。今日はえれぇ大きな荷物持ってんな。それにこっちは例の譲ちゃんかい?」 「よう、八百屋の大将。それと『例の』なんて付けるとなんか如何わしくなるから止めてくれ」 「あ、あの、初めまして」 商店街の中心から少し外れたところに、その八百屋さんはあった。 (……これが、あの八百屋さん……) 実は、今回の最重要目的はこの八百屋さんの所在だったりする。 占い師さんがざっくばらんに、必要とあらば高い安いの区別なく買ってくる物の中で、唯一安いのが野菜だったのだ。 それも、全てスーパーでの定価の3分の1ほどの値段で。 それ気付いて占い師さんに問いただした後、教えてもらったのがこの八百屋さんなのだが……。 「人でいっぱいですね……」 八百屋の店先は、人でごった返していた。 地元の主婦が全員来ているんじゃないかと思うくらいの、主婦の群れ。 正直、怖い。 「いや、おかげさまで繁盛してるよ、全く」 「初対面で『おかげさまで』も何もないだろ」 「言葉のあやとりってやつだろう? 冗談が通じないと女の子に嫌われるよ、兄ちゃん」 「ああ、まさに今は『言葉のあやとり』状態だろうよ。しかも完全に絡まってる奴な」 親しそうに話す占い師さんと八百屋の大将。 昔からの知り合い以外、基本的に他人には無関心な態度を取る占い師さんにしては珍しい態度だ。 (…………もしかして) 「あの、大将って、都市伝説とかと関わりは……」 間違っていても適当に取りつくろえる範囲で、大将に尋ねる。 私の場合は能力を使えばすぐに分かるだろうが、できるだけそういった無粋な事はしたくない。 「おう、契約者って奴だな」 「何だ、能力を使えば分かるだろ、お前は」 無粋な真似を平気でする占い師さんはこの際放っておく。 「じゃあ、この人ごみって……」 「俺の契約した『戦争状態の購買』の能力だな」 「え? でもここ、八百屋さんですよね?」 「契約ん時にどこでも使えるようになったんだわ」 ……なるほど。 でも、職業倫理的にそれはどうなんだろう。 私の視線と、その意味に気付いたのか、大将は手をひらひらと振って 「なに、ちゃんと競争して買うだけのもんにはしてるつもりだよ、嬢ちゃん」 「つーか、ここに来た目的、覚えてるか?」 「えっと……」 ここに来た目的、つまりは野菜を買うため。 で、なぜこの八百屋かというと―― 「……値段、ですか?」 「おう、大量購入して、能力を使って大量に売る。だからこそできる値段ってわけだ。確かに能力で購入意欲は増やしてるけどよ、何も操って無理やり買わせてるわけじゃねぇんだぜ? ちょいと色をつけて買っては貰ってるけどよ」 客商売をしてる上で身に付けた技能なのか、凄いマシンガントークだ。しかもべらんめぇ口調。 その後も、徐々に能力を使うのをやめて、1、2年後には全部このままの値段で売るつもりだとか、その他色々と言葉を正に「ぶつけ」られ、私は白旗を上げるしかなかった。 「……ってか、買い物はいいのか、嬢ちゃん。早くしねぇと売り切れちまうからよ、うちの商品は」 「………え?」 店先を見るが、人だかりで肝心の商品の量が分からない。 というか、さっきより人が増えてるようだった。 「お勘定はどうしてるんですか? あれだけの人を捌くのは大変そうですけど……」 「そこは能力使ってちゃんと無人のバケツに入れてもらっとるよ。野菜がなくなりそうだったらさすがに俺の出番だがな」 お勘定なんて所でも能力が発揮されるのか、と思わず感心してしまう。 ……でも、これでもう疑問もなくなった。 「じゃあ私、行ってきますね!」 そう占い師さんに声をかけて、群衆(まさに『群衆』だ)の中へと飛び込んでいく。 能力を使って、最短に、安全行けるルートを検索する。 ちょっと怖いけれど、私だって負けられないのだ。 「元気ないい子じゃねぇか、兄ちゃんにはもったいない」 「それ以上言うと殴るぞ、大将」 ……未来が人だかりの中へと入り消えた後も、俺は大将と話を続けていた。 「しっかし、俺のかみさんはお前さんの話になると毎回『あんな偏屈、契約者を得られるわけがない』っつってたのになぁ」 「大将も会うたびにその話をしてる事に気づいてんのか?」 「いやいや、今日はかみさんが都市伝説契約者だったって知った日の次に驚いた日になってんだよ。実物を見ちまったんだからな」 「未来が都市伝説みたいな言い方だな、おい」 以前この町に住んでいた知り合いの都市伝説、その契約者の夫がこの大将だった。 ……いや、会った当時は大将もその嫁もガキだったから夫になるかどうかは知らなかったが。 その嫁は数年前に病気で死に、それと期を同じくして都市伝説の方も町を去ったらしい。 「ってか、俺的には大将が都市伝説と契約した事の方が驚きなんだが」 「そりゃ、死ぬ前かみさんに『店おっきくして、でっけぇ墓建ててやる』って言っちまったからなぁ。悪魔じゃなく都市伝説に魂を売ったわけよ、俺は」 まぁ、縁起でもないって殴られちまったけどよ、と冗談交じりに言っているが、内容はひどく凄惨だ。 「まぁ、大将が状況を受け入れてるならいいんだけどな」 「そりゃ、契約した以上は受け入れるしかねぇだろうが」 その一言で片づけられる大将は、きっと強いのだろう、その精神も、妻との絆も。 俺と未来の絆は、はたしてどれだけの強度を持っているのだろうか。 (後で聞いてみるか……) その時未来がどんな顔をするのか、今から楽しみに思う占い師だった。 終 前ページ次ページ連載 - 占い師と少女
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《ちっ……まだ使える都市伝説があったのか》 「その“使える”って意味によるけどな 使用できる都市伝説ならこの通り、今の時点では俺の切り札だ 便利な都市伝説は残念ながら手元に無い」 『そんな言い草は無いだろう? まぁ、君のような単細胞契約者は一生かかっても僕を使いこなせないだろうがね』 「何だとぉ!? 人殺ししか脳に無いお前よりは遥かにマシだろうが!!」 「け、喧嘩は止めなよ!」 喧嘩とは言え、傍から見れば剣に向かって裂邪が一方的に八つ当たりしているようにしか見えない それに、一見すると黄金の柄の剣が口を聞いているように思えるが、実際は剣にとり憑いている紫の霊魂だ 「ティルヴィング」、「憑依霊」、「エルクレスの塔」、「ヴァルプルギスの夜」、そして「神出鬼没」 5つの都市伝説に飲まれた元人間である、裂邪の6つ目の都市伝説―――ナユタ 元々は人から人へ憑依して回り、他人の命を奪って愉しんでいた姿無き快楽殺人鬼だったが、 それを止める為に裂邪が強制的に仮契約を行った為、このような現状になっているのだ 《だが何を使えようが関係ない、俺は並行世界をも支配する男だ! 例え別世界の俺だろうと、たった1人の契約者が止められる訳がない!!》 周囲の小型UFOが砲撃の準備を開始する その数、凡そ20機ほど 「……おい殺人鬼、ここは一時休戦と行こうぜ」 『本当は即刻取り下げたいところだが…仮契約だか何だが知らないが、それでも君との繋がりは深いらしい 君に死なれると僕が消える……それだけは避けたいからね』 裂邪が「ティルヴィング」を前方に構える きらり、と切っ先が光を反射して輝いた 『言っておくが、足手纏いにはならないでくれたまえ』 「お互い様だろ馬鹿野郎……行くぞ、ナユタ!」 『…仰せのままに』 《撃てぇ!!》 UFOから、裂邪に向けてレーザーが一斉に発射される それらは全て彼に被弾した――――と思いきや、逆に放射状にレーザーが放たれ、20機のUFOが撃墜された 《何っ!? どういう事だ!?》 「ヒハハハハハハ! 「エルクレスの塔」は光を反射して敵軍を焼き払った「アレクサンドリアの大灯台」の縮小型だ! だったらもう分かるよな? レーザーも光だろ!?」 《こ、小癪な……余り目立つ事はしたくなかったが、構わん! 全軍、黄昏裂邪を撃ち殺せ―――――》 命令されたと同時に、傍のUFOが両断され、爆音と共に木っ端微塵になった 何事か、と軍服裂邪が確認しようとした次の瞬間に1機、また1機と墜ちてゆく 《ええい、今度は何が――――――ッ!?》 彼はそこでようやく気付いた 先程まで地上にいた筈だった裂邪が、そこにいなかったのだ では、何処に行ったのか? 何気なく視線をやった先に、彼はいた 今まさに、小型UFOを真っ二つにせんとしている あ、と言う間もなく断ち斬ると、その瞬間に彼の姿が消える 「神出鬼没」による、擬似的なテレポーテーションだ 《消えた……!? 違う能力か!?》 《レーダーニ反応アリ。敵ハ303号機ニ乗ッテイマス》 《ちっ、550号機、753号機! 奴を303号機ごと撃て!!》 《《了解》》 指示通り、2機のUFOから再びレーザーが放たれる しかしその真っ直ぐ伸びる光条は、紫色に怪しく燃え上がる炎によって掻き消された 邪念の篭った攻撃を容赦なく祓う「ヴァルプルギスの夜」である 「あーぁ…良い具合にチートだよな、お前」 『素直に喜びたまえよ、今は君の力なのだから』 「ティルヴィング」を振り下ろし、UFOを撃墜すると、瞬間移動して先の2機も分断し、 飛んできたレーザーを全て跳ね返して確実に撃ち落とす 気がつけば、飛んでいるUFOは母艦だけだった 「ウヒヒヒヒ…おーい、世界の支配者さんよーぃ まさかこれで終わりとは言わねぇよなぁ?」 《……成程、腕は確かなようだ。ならこれはどうだ?》 母艦から謎の光が伸び、不気味な影が降り立った 全身は緑、脚は2本だが、鋭い爪を持った腕が6本あり、先端が棍棒になっている尻尾も2本伸びている 珍しく翼は生えてなく、代わりに胸部には赤く輝く結晶体が埋め込まれていた 目は左右に4つずつ、口はX字に裂けており、滴る涎がアスファルトを溶かす 「ジ・ジ・ゼ・ジ・ゾ……」 《今度はその「ミュータント」が相手だ》 「わお、これどこの三流RPGよ、何故か血が騒ぐぜ」 『子供かね君は』 「男はずっと子供なんだよ、馬鹿みたいに大人びるからあんなことになるんだ」 呟きながらも「ミュータント」の地面を穿つ攻撃はしっかりと回避する と言うより、本人が意識せずに、勝手に身体が動き出していた 「……おい、契約者には憑依できないんじゃなかったのか?」 『さぁね、仮とはいえ、契約したお陰じゃないかな?』 ナユタの本体は「憑依霊」だ 過去には契約者や都市伝説には憑依できず、一般人に憑依して戦闘を行っていたが、 どうやら今は裂邪に憑依できるらしく、彼の身体能力を底上げしているようだ 『ま、憑依してはいるが、君の意識が残っているのはちょっとショックだよ』 「ざまぁみろ、好き勝手にゃさせねぇよ!」 尻尾の棍棒を「ティルヴィング」で弾き返し、爪による斬撃を「ヴァルプルギスの夜」で無力化する 「神出鬼没」で背後に周り、背中から襲いかかる すぐに気付いた「ミュータント」も尻尾で応戦し、何とか背中の一撃は免れたものの、 その代償として尻尾の先が、鮮血を散らして空に舞う 小さくガッツポーズを決める裂邪だったが、体液を飛び散らせて再生した尻尾を見て萎える 「やっぱ再生すんのか…厄介な」 『再生しないように細かく斬り刻むか、焼くしかないようだ』 「殺しに関しては天才だな、お前」 次の瞬間、「ミュータント」の胸部の水晶体から、赤い光線が放たれる またレーザーかよ、と文句を垂れて「ティルヴィング」の切っ先を向け、「エルクレスの塔」の能力で光線を跳ね返す 光は水晶体もろとも焼き焦がし、「ミュータント」の身体に風穴が空く 咆哮を上げ、「ミュータント」は一瞬怯んだ 「っし、ナユタ、数撃手伝え!」 『言われなくともそのつもりだ』 裂邪は居合の構えで「ミュータント」に飛びかかる すれ違いざまに目にも止まらぬスピードで剣を振り、軽やかに地に足を付けた ぼと、ぼとぼと、と化け物は細切れになり、溶けて消えて無くなった 「………す、すごい……あんな化け物を、一瞬で……!」 路地裏から戦いを見ていた少女裂邪は、密かに感動を覚えていた 同時に、腹の底から湧き起こるようなとてつもない感情に、徐々に気付きつつあった 「ヒハハハハハハハ、そ~ら、もう終わりか? 何だったら遠慮なくその無駄にデカい船をぶっ壊させて貰うぞ!」 意気込む裂邪だったが、実は少しばかり体力の限界が近づいていた 殆どナユタの憑依による自動操縦状態だったが、裂邪は運動嫌いで且つ体力は同年齢の平均以下 UFOからUFOへと飛び回っていれば、その減り具合も納得である 《……ふん、安心しろ、まだ用意してある》 再び怪しげな光が出現し、先程の「ミュータント」が現れた ここまでは同じだが、問題はその数である 全部で、5体……流石の裂邪も、顔に出してしまう程の多さである 『もう体力切れか? 全く、よく多重契約なんて出来たものだ、呆れを通り越して…やはり呆れるね』 「どうも有難う、それよりまずいぞ、何とかしたいが……ん?」 目の前には、水晶体にエネルギーを溜める6体の「ミュータント」 恐らくこの後、先程のように胸から光線を出すのだろう 裂邪はポケットからスマホを取り出し時間を確認した後、空を見上げ、にやりと笑った 「問題です、雲の上には何がある?」 『は?』 「あぁ全く常識問題だ、答えは太陽 あの雲さえ退ければ、太陽が見られる訳だ」 『それがどうした――――――――あぁ、そういう事か』 5体の「ミュータント」が同時に光線を発射する 一つになって巨大化した光線を、裂邪は「ティルヴィング」の切っ先で天に向けて反射させた 《血迷ったか、何処を狙っている?》 「見りゃわかるだろ、雲だよ! そして、俺が狙ってるのは、その先に在る希望だ!」 反射した光線は雲を貫き、空に巨大な穴を開ける その穴から、眩い光を放つ神の目玉が、ぎょろりと覗いた 町中が、光に包まれる 町に、そして裂邪の背に、“影”が生まれる 「…ッヒヒ、やっぱ用意が良いな……来い!シェイド!ミナワ!理夢!ウィル!」 「了解シタ」 「はい、ご主人様!」 「OKィ!」 「がってんでい!」 裂邪の影から、黒いローブを纏った人影、青い髪の少女、白い毛並みの獣、赤い人魂が次々と飛び出した 「シャドーマン」のシェイド 「シャボン玉」のミナワ 「獏」の理夢 「鬼火」のウィル 全て、裂邪の契約都市伝説 これまで彼を支えてきた、仲間であり―――家族 《ッバカな!? 一体幾つと契約しているんだ!?》 「都市伝説が……4つも増えた!?」 驚愕する2人の裂邪だったが、この光景はもはやお馴染みなので当の裂邪も半笑いである 「お前ら、状況は分かってるな?」 「全テ影ノ中デ見テイタ……ソコノ少女ノ事モナ」 「もぉ、厄介事に巻き込まれすぎですよ、ご主人様は」 「ついこの間まで誰かと入れ替わってたテメェが言う事かよ?」 「違ぇねぇ、結局は『都市伝説は引かれ合う』って奴でい!」 『のんびり話している暇があるなら前を見たまえ、来るぞ』 「ミュータント」が爪を立て涎を垂らし、ゆっくりと前進してくる ふん、と裂邪は鼻で笑うと、右手を前に差し出した 「まずは奴らの撃破……戦闘開始だ!」 ぱちんっ、という指の音と共に、彼等は一斉に行動を開始した ...To be Continued 前ページ次ページ連載 - 夢幻泡影
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恐らく俺は気がついたらしい 心成しか、長い眠りについていた気がする どういう訳か右半分が真っ暗だ 失明でもしたのだろうか あちこちに痛みを感じる身体を、俺は無理に起こした 一瞬、右目に光が入った これは……髪か? こんなに長かっただろうか 起きる前に何をやっていたのか、考えた そうだ、俺は…… 「ご主人様ぁ!!」 突然、身体を強く抱きしめられた 痛みで呻きそうになったが、その姿を見て痛みどころではなくなった 「………ミナワ……なのか?」 「そうッですよぉ…もぉ、無茶ばっかり、してぇ……ばかぁ……」 「…すまなかった。俺の為に考えてくれたんだよな……有難う」 泣きじゃくるミナワをそっと抱きしめ、俺は彼女の頭を撫でた 「…本当に奇跡ですわね」 「一時はどうなるかと思ったが」 ふと見れば、ローゼちゃんが安堵を浮かべた表情でこちらを見ていた 隣にいるのは黒いローブを羽織った、黒い長髪に浅黒い肌、赤い瞳の妙齢の女性 「……ん? お前……」 初めて見た筈なのに 俺はそれが誰なのか、分かった気がした 「やっとヒーローが目覚めやがったか」 「無理もありゃせん、あれだけの事をしなすったんでい」 「ま、大馬鹿者も良い所だね」 「ボス、身体の具合は、宜しい、でありますか?」 次々に視界に入ったのは、 白い毛皮のジャケットを着た、白髪で碧眼の、八重歯が目立つ十代くらいの少年 赤い袴を着て黄色い扇子を持った、赤髪で細目の二十代くらいの男性 紫色のジャンパーを着て金の柄の剣を持った、紫の長髪を後ろで縛った小学生くらいの少年 灰色の迷彩服を着た、灰色のセミショートで感情の薄い10代くらいの少女 「……何?」 「あ、えっと、ご主人様、この方達は―――」 「理夢、ウィル、ナユタ、それにビオ……なのか?」 「へぇ、分かるもんなのか。流石は主だぜ」 「覚えて頂き光栄、であります」 白髪の少年――理夢は、腕を組んで満足そうに言い、 灰髪の少女――ビオは敬礼しつつ、ポーカーフェイスで言った 「いやーしかし、まさか人間になっちまうたぁ思いやせんでしたねぇ」 「おほほほ、全くですわ♪」 「ムギュ……き、君、僕の事を嫌っていた筈じゃなかったかね?」 「貴方が子供なら話は別ですわ♪ あぁん可愛らしい♪」 赤髪の男性――ウィルは扇子を広げて笑い、 紫髪の少年――ナユタはローゼちゃんに抱きしめられて苦しそうにしていた と、いうことは…… 「…お前……シェイドか」 「あぁ。意外そうだな?」 「女だと思ってなかったからな」 「……我々には、性別の概念がなかった…筈なのだが」 「でも、どうしてこうなったんだ?」 「その説明に至る前に、他に話さなければならないことがあります」 ばたん、とドアを閉めて現れたのは蓮華ちゃんだった その表情から察するに、状況はあまり宜しくないようだ 「……話、というのは?」 「まず最初に…とんでもないことをやらかしましたね」 アタッシュケースを開けて彼女が取り出した袋には、 金と紫、灰色の、3つのパスの破片が入っていた 不意に己の胸元に手を当てると、そこには金色の枝のペンダントになった「レイヴァテイン」が提げられていた 「貴方が融合を解いた時、貴方の傍に落ちていました これが破壊されているという事は、今の「レイヴァテイン」、そしてナユタとビオは、仮契約では無く本契約されている つまり…貴方は7つの都市伝説と本契約を結んでいる状態だということになります」 「…皆が無事で俺も生きているという事は…成功してた訳か」 「いえ、そうでもありません」 「何?」 「じ、実は……あの後、私達はすぐに目を覚ましたのですが、ご主人様は……」 「7つの、しかも実際はトータルで14の都市伝説と本契約を結んでるんですよ? 器が耐えられる訳がありません……現に、貴方も飲まれる寸前でした」 「なっ……!?」 「ですが、裂邪さん自身が抵抗し、ギリギリ保っている状態でした が、放っておけば飲まれ……消滅していたかも知れません まぁ、御存知の通り今は大丈夫です。ちょっと手古摺りましたけど…」 と、蓮華ちゃんが俺の布団を勢い良く剥ぎ取った 俺が見たのは、俺の腰に巻かれたベルトだった 『ウルベルト』のようだが、少し違う 「……新しいベルトか?」 「壊したり、外したりできないように設計してありますが…絶対にしないで下さいね? もしこのベルトが貴方の身体を離れたら、その時は死ぬと思って下さい」 「物騒だな…」 「今までのものは都市伝説召喚機に過ぎませんでしたが、 こちらは都市伝説制御装置になりますからね」 「だが、パスはどうするんだ?」 「パスの代わりに、これを使います」 手渡されたのは、黒をベースに金のラインが入ったスマートフォンだった 良く見れば、俺のXperiaに似ている 「貴方の故障したスマートフォンを改造しました 使い方は後程改めて説明致しますが、主な用途は3つ 1つ目は都市伝説の呼び出し 2つ目は都市伝説との繋がりの調節 3つ目は都市伝説との融合」 「繋がりの調節?」 「「教会」のロリス・カスティリオーニから頂いた、契約を司る天使「メタトロン」の羽を用いて、 契約都市伝説の繋がりの強弱を調節し、契約者への負担を和らげます」 「ほう…ん、融合もこのベルト頼みか?」 「当たり前です。これまでのように直接すると一気に飲まれます 代わりに、融合時の負担も軽くなりますので」 「へぇ……有難う、後で詳細も宜しくな」 「はい」 「で、こいつらがこうなった理由だが」 俺はシェイド達を見回した ウィルは顔を顰めて紫の扇子を煽いでいる。感情で扇子の色が変わるのか ナユタは未だにローゼちゃんに抱きしめられていた。いい加減苦しそうだな 「私も断言はできませんが…… 恐らく、貴方が7つの都市伝説と同時に、情報が混ざってしまったんだと思います」 「混ざった?」 「成程、要は裂邪が都市伝説に近くなった代わりに、 我々が裂邪から“人間”の情報を得た……ということか?」 「そんなところですね」 「待て、じゃあ「レイヴァテイン」はどうなる? これだけは今まで通りなんだが」 「これも憶測ですが、貴方と一番繋がりが深くなったのだと思います 簡単に言えば、「レイヴァテイン」は貴方自身であり……貴方は「レイヴァテイン」の一部でもある、と」 「……有難う、大分理解できた あぁそうそう、この髪なんだが―――」 「やっと気付きましたね! そこなんですよ私が気になってたのは!」 やけにテンションが上がる蓮華ちゃん この子こんなキャラだったか? 「やはり推測の域を出ませんが、一度全ての契約を解除したことで止まっていた成長が進行したんだと思います 何せこれも初めて見た現象なので、まだ何とも言えないんですよ」 「そういや主、背も伸びてたぜ」 「本当か?」 「はい、測ったら何センチか伸びてました」 「確かに興味深いな……そんなこともあるのか」 実際どれくらい伸びたのだろうか…後で調べておかねば ふと天井を見ながらそんなことを考えていると、視界に黒髪の女性が映った 「どうした、シェイド?」 「誰も口にしないから敢えて言うが…お前何日寝てたか知ってるか?」 「へ?……おい今何日だ?」 「11月5日土曜日…丸5日眠っていた、であります」 「しまった……学校は!?」 「ご安心を。御両親に報告した上で、ルートちゃんに頼んでインフルエンザ感染を理由とした出席停止の処置を取らせて頂きましたの」 「…ふぅ、良かった……」 「何処がだ!! この5日間、我々がどれだけ心配したか分かってるのか!? 少しは自分の身の安全を考えて行動しろ!!」 両肩を掴まれ、部屋が静かになるほど怒鳴られた あまりに唐突すぎて、思わず視線を反らしてしまった 「…わ、悪かった、シェイド……心配させてごめん―――」 そう言いかけた直後だった 初めて、俺はシェイドに抱きしめられた 心が安らぐような、優しい匂いがした 「……え?」 「もう、私に心配をかけさせるな……馬鹿息子」 言われて、心の奥底から、何かが溢れそうになった 今この瞬間に、彼女に―――シェイドに伝えたいことが、湧水のように、幾多も溢れ出す その多くが、上手く言葉にならずに霧散して消えていった ただ一つだけ、言い出せたのは 「………母、さん………」 それ以上は何も言えなかった 涙を隠す為に顔を埋めると、ぽん、と頭を撫でられた 優しく、温かな感触だった 「はーいストップストップ!」 突然、シェイドが引き離され、入れ替わるようにミナワに抱きしめられた いつになく、強い力で 「ミ、ミナワ? どうかしたのか?」 「どうもこうもありませんよ! 不毛すぎます! シェイドさん、今私の裂邪を誘惑しようとしてたでしょ!?」 「なっ!? ば、馬鹿違うっ!?」 「だって裂邪の顔を胸に押しつけてたじゃないですか! ただでさえ大きいのにやめてくださいよ! ねぇ裂邪♪」 「ミナワ、」 「何ですふぁっ!?」 俺はミナワの頬を抓った もっちりとした幼い肌はよく伸びた 「い、いふぁいいふぁい! ふぁ、ふぁんふぁんふぇふふぁ!?」 「お前が何なんだ、あの状況で割り込まないだろ普通 あとシェイドに限ってそういう気を起こす訳が無い事はお前も解ってる筈だ」 「ほ、ほふぇんふぁふぁいぃ~!」 「解れば良い……ッヒヒ」 頬から手を離すと、俺はミナワを強く抱きしめ返した 「ふえ!?」と驚いたようにあげた声が久しぶりで、一層愛おしく感じた 「言っただろ? 俺はこの世で唯一お前だけを愛してる。お前だけが俺の女だ」 「えっ、や、やだっ、そんな、皆の前でッ……れ、裂邪ぁ……///」 「…なぁ、なんか主、いつもと違ってねぇか?」 「そうだね、契約の副作用か何かかも知れない」 「? ボスはボス、であります」 「あー、ビオの姐さん、そういう訳じゃ―――」 「あのぉ…そろそろ良いかしら?」 完全に蚊帳の外だったローゼちゃんが、冷や汗をかきつつ訊ねてきた 蓮華ちゃんは、膝を抱えて回転椅子に座ってくるくる回っていた……何かあったのか? 「えっと、これから裂邪さんのコードネームを発表しようと思いますの」 「コードネーム?」 「『Rangers』のメンバーには、任務の時はコードネームで活動して頂く決まりですの 本当は初任務の時に言い渡す予定だったのだけれど、いつものノリで……てへっ♪」 「いや忘れてたんじゃねぇか」 「コードネームでござんすか、なかなか「組織」らしくなってきやしたねぇ」 「……それで、俺のコードネームは?」 ふふん、と勿体ぶったような顔で、ローゼちゃんは鼻を鳴らし、 ハイヒールの音を響かせて俺の方に歩み寄った 「…裂邪さん、これからは「組織」として、様々な任務をこなして頂く事になりますわ でも、貴方なら……いいえ、“貴方達”ならきっと、どんな困難にも立ち向かえると、ワタクシは信じています “七つ”の都市伝説を使役し、“七つ”の色に“変化”する………」 彼女は立ち止ると、右手を、す、と挙げ、 ビシッ、と勢い良く俺を指差した 「裂邪さん……いいえ、貴方の名は…………」 ...To be Continued 前ページ次ページ連載 - 夢幻泡影